元競輪選手がつくるホワイトラーメン
ラーメンという新たな道で
絶対に悔いは残したくない
泡が挑発する
行橋発の白いラーメン
真っ白なスープの表面に浮かぶのは細かな泡。レンゲにすくい、口に流し込めば、なんとも言えない口当たりの良さが体感できる。鼻に抜ける豊かな豚骨のフレーバーが、レンゲを持つ手を休ませない。
次を、早く次を、と舌が、そして本能が求めるスープは、確かに濃度は十二分に高いのだが、全くクドさはなく、水を飲むかのように、スイスイと喉元を過ぎていく。
余韻に残ったのは、幸せな時間だった。
福岡県の北部に位置する人口およそ7万人(※2018年4月現在)の行橋市に、この極上の“ホワイトラーメン”を提供する店がある。2009年に開業した「金田家(かなだや)」だ。
某グルメ口コミサイトで福岡一位を数年にわたって獲得。本店はもちろん、今では行橋に構える本店のほか、福岡市内にある博多店、そして、ロンドンや上海でも支持されている人気ぶりだ。
店主・金田和浩さんは1985年から2005年までの20年間、競輪選手として活躍した。その後、この店を開いている。金田さんは首のあたりを指差しながら「交通事故に遭ってしまって、車にぶつかった時に、ここをやってしまって。その時は首から下が全く動かなくなったんよね」と教えてくれた。
一歩間違えば命を失うような大事故である。3カ月の入院生活の後、1年半にわたってリハビリに取り組んだ結果、なんとか身体は動くようになった。だが、選手生活を続けられないことは、自分自身が一番良く分かったのだという。
「潮時かなと思ったんよ。もうね、未練はこれっぽっちもなかった。ただ、自分のことは自分がよく分かるんやけど、俺は結局、競輪で全力になれなかったなって。そのことへの引っ掛かりはあったね」。
日本では競輪選手は2000人以上いると言われ、金田さんはその中でも階級の上位であり、花形とされるS級の選手としても活躍した実績がある。
「結局、一度も大きなレースで1位は獲れんかったけどな」。
金田さんはそう言って、少し上を見た。自身では口にしなかったが、きっと天才肌だったのだろう。練習を好まないと言っていたにも関わらず、S級選手にもなり、そこそこの成績が残せていたのだ。
ただ、トップを獲るには才能だけでは越えられない壁があり、そのまま時間だけが過ぎた。事故によって、その選手生活の幕は静かに下ろされる。
本気になりたい
ラーメンで生きていく
引退後、3年間は年老いた両親の世話に打ち込んだ。同時に、常に頭の中にあったのは、これからどうやって生きていこうか、という切実な問題だった。
「ラーメンをやろう」。
競輪時代、本気で打ち込めなかったという後悔の念があった金田さんは、「これからはおまけのような人生。好きなものに打ち込もう」と素直に思えたのだという。
「ラーメンという道で、自分という存在を示してみたいという気持ちが沸き起こってきた。競輪の道に進んだのも、俺の意思ではなく、父からの勧めやったしね。人生において、最も大きな決断だったな」。
今でこそ世界進出まで達成している人気店だが、はじめは一筋縄ではいかなかったという。
しかし、待っていたのは残酷な現実だった。40も半ばを過ぎた飲食経験ゼロの金田さん。修業を切望した店ではあっけなく不採用だった。ラーメンの道へ進むには、独学という選択肢しか残されていなかったのである。
金田さんはラーメンのレシピ本を片っ端から買い漁り、自宅にスープ室を作り、毎日、骨のバランスを変え、炊き込む時間を変え、火力を変え、試行錯誤する。ラーメンの味を決める元ダレにおいては実に100種以上を試作した。
選手として養った勝負士の勘が、ここを疎かにするなと念を押す。ようやくスタートラインに立てたスープ、そして妻や義理の両親、友人や周囲の協力もあり、2009年に行橋本店を開業した。
「最初から、分かっていたんですよ、開業がゴールじゃないって。だから店を開くにあたって周りにいろんなことを助けてもらったんやけど、ラーメンの味に関することだけは自分一人でやり抜いた。これだけは自分の戦い」。
本気になれなかった自分、それを変えられなかった自分、そんな過去を振り切る方法を、本人が一番よく分かっていた。
周りのことは気にしない
自分の評価は自分でする
金田さんのラーメン作りは手間暇を惜しまない。豚骨を一度、炊いてアクを取り除き、その上で、20時間以上加熱する。
その後、冷やすことでスープを熟成させて完成。営業中も寸胴ごとグラグラと加熱させることなく、注文を受けるたびに、一杯立てのコーヒーのように、都度、小鍋に移して仕上げていく。
「ラーメンで生きていこうと決めてからは、とにかく、誰にも真似できない一杯を作ることだけを考えてきたけんね。唯一無二の味。それでいて奇をてらわない王道の味。禅問答みたいやろ。他にないのに、王道なんやけんね」。
そう話す金田さんの表情には苦労の色はなく、むしろその困難を楽しんでいるようでもあった。
「真っ直ぐに打ち込んでいると、良い意味で周りが見えなくなる。結局、周りの評価なんてどうでも良いんよね。自分がどう思っているのか。それが大事だって、やっとわかった。俺はうちのラーメンが世界一だと思ってる。
一生懸命やっている他のラーメン店の店主さんたちも、きっとそんな気持ちで仕事に向き合っていると思うよ」。
すでに人気を獲得し、世間からの一定の評価も得ている金田家のラーメンだが、金田さんにおいては、この味もきっと通過点なのだ。好きだからさらに上を追い求める。競輪時代に燃やせなかった情熱というエネルギーが、今の金田さんの原動力だった。
取材を終え、帰ろうとした際、金田さんはこんな言葉を掛けてくれた。
「また来てね。うちのラーメン、まだまだ美味しくなるよ」。
text:Yuichiro Yamada [KIJI] /
取材協力:金田家 博多店
DATA
店舗情報
金田家 本店
〒824-0003
福岡県行橋市大橋1-4-3
- 電話
- 0930-24-3666
- 営業時間
- 11:00~15:00、17:00~20:00(LO)
※売り切れ次第終了 - 定休日
- 木曜
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サービス
(転職中の方/お1人様1回まで)
2018年9月13日〜10月13日まで
- 福岡県「金田家 本店」「金田家 博多店」2店舗でご使用いただけます。
- 1日の数量に達し次第、〆切らせていただく場合がございます。
また期間内でも予定数量に達し次第、本キャンペーンを終了する場合がございます。予めご了承ください。
WRITER
山田 祐一郎
日本で唯一のヌードルライターとして活動。著書に「うどんのはなし 福岡」。2017年に麺索アプリ「KIJI NOODLE SEARCH」をリリースした。モットーは1日1麺。
webサイト[KIJI]http://ii-kiji.com/では日々の食べ歩きを記録したwebマガジン「その一杯が食べたくて。」も連載中。