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元八百屋がつくる呼び戻しとんこつラーメン

福岡

元八百屋がつくる呼び戻しとんこつラーメン

何を仕入れ、どう売るか
それは野菜もラーメンも変わらない

商売の基本を学ぶべく
生鮮食品の部署へ

熊本県の南西部にある、野生のイルカに出会える風光明媚な島・天草。黒田光四郎さんは、この島で生まれ、高校まで地元で過ごした。

小中高と野球に打ち込んでいたが、好きだから続けていたという感覚で、特にプロを目指していたわけでもない。高校卒業後の進路に悩んでいた折、ひょんなことから就職の縁ができた。

90年代前半、九州では、総合スーパーマーケットチェーン「マルショク・サンリブグループ」が事業拡大のため、進出していた時期である。同社の人事部の担当者が高校にやってきて、就職希望者を募っていた際、社内に野球部もあり、仕事自体も面白そうだったという理由で黒田さんは就職を希望した。

「事務系の仕事よりも体を動かすほうが性に合っていると思ったんです。今もそれは変わりませんね」と振り返る。

就職先が無事に決まった黒田さん。「なんせ田舎者だったので。オシャレで良いかな」と笑いながら、元々、アパレル関係の部署を希望していたことを教えてくれた。
その際、黒田さんは上司から忘れられない一言をもらう。

「これから黒田くんが進むのは商売の世界。商いの基本が何か知っているか」。

そう言われ、まずは生鮮部門に就くことを勧められたという。生鮮で扱う品物は、鮮度が命であり、常に商品が回転する。
さらに季節でも品揃えは変わり、仕入れ、値付け、販売、在庫管理という商売に必要な知識が得られる。

「本当にやりがいがありました。自分で全て考えられるところに惹かれましたね。いくらで仕入れて、いくらで売るか。レイアウトをちょっと工夫するだけで売れ方がガラリと変わりますしね。とてもエキサイティングでした」。

簡単な例を一つ挙げると、1個100円だと高いと感じる果物を、5つで400円にしてお得感を出しつつ、他の野菜でその値引き分を回収するなど、売り方のバランスを変えて利益を確保した。
黒田さんは商売の面白さを学んだ。

女性客の声が反映されたメニュー。新たな売り方を考える黒田さんの姿勢は、八百屋時代から変わらない。

女性客の声が反映されたメニュー。新たな売り方を考える黒田さんの姿勢は、八百屋時代から変わらない。

八百屋よりもさらに近い
お客からの「ありがとう」

黒田さんはスーパーを約3年で退職。それまでの経験を生かし、22歳で八百屋をフランチャイズで展開する会社に転職した。
この会社では複数人による共同運営での八百屋を展開する手法をとっていて、黒田さんも他2人のオーナーとともに2店舗を経営することになる。

2年が経った頃、黒田さんにはすっかり八百屋、ひいては生鮮食品の販売スキルが身に付いていた。
そんなタイミングで八百屋に通う飲食関係のお客から「人気ラーメン店が求人を出していた」と聞いた黒田さんは、チャレンジしてみようという気持ちになった。当時、黒田さんは24歳だ。

「自分の中で、八百屋だったら絶対に負けないという自信ができました。それもあって、ラーメンにチャレンジしてみようと思えたんです。30歳まで全力を尽くして、結果が出なければ八百屋として一からやり直そうと覚悟を決めました」。

なぜラーメンだったのか。一つには、たまたま求人があり、縁があったという理由もあるが、それはあくまできっかけに過ぎない。最も黒田さんの心を揺さぶったのは“感謝の近さ”だ。

八百屋でやっていたのは、野菜を売ること。つまり原材料の販売である。それを買ってくれたお客から「ありがとう!」と言われることがあっても、多くの場合、その感謝は価格の安さに向けたものだった。
もちろん、黒田さんから買った野菜が美味しくて、次に来店した際にそれを伝えてくれるお客もいる。

「ただ、その場合、感謝に時間差がありますよね。売った野菜をその場で食べるわけではありませんから。ラーメンは違う。食べたその瞬間、リアクションが見られます。お客さんが喜ぶ笑顔との距離がさらに近いんです。八百屋でも対面商売の醍醐味に触れてきました。だからこそ、ラーメンがより楽しそうに思えたんです」。

自分が作るラーメンで
人柄を表現したい

黒田さんは2つのラーメン店で修業を積み、その後、30歳で自身のラーメン店を開業した。ラーメン店を始めてみると、スーパー、八百屋での経験が生きた。

例えば、仕入れ。競りは競合他社とのかけ引きに、相場は時代の空気を読むことにつながる。同じ野菜でも、売り方や見せ方を変えるだけでお客の反応は大きく異なり、それは、ラーメンに置き換えても変わらなかった。

仕入れたものをどう売るか。それもまた、野菜もラーメンも変わらない。手元にあるモノの魅力を最大限に引き出し、それをお客に提供する。これは、スーパー、八百屋で、ずっと考え続けていたことだった。

「ラーメンは本当に不思議な料理です。僕の場合は豚骨スープですが、同じ豚の骨を使っても、火の入れ方、時間を変えただけで全く別物の出汁がとれます。今は、久留米の老舗・大砲ラーメンの香月さんに手ほどきを受け、呼び戻しという手法を取り入れるようになりました。スープ釜を空にすることなく、骨を継ぎ足しつつ、濃度を深めているんです。そうなるとますます工夫の幅も広がります」。

口当たりが良いなめらかな豚骨スープを飲み進め、丼の底が見えるくらいになると、ザラザラとした感覚が舌に伝わってきた。これは骨粉といって炊き込んだ豚骨の粒子である。極限まで煮詰めて旨味を出し尽くした証だ。

「ラーメンに人抦が出せるようになりたいですね。大将の味みたいなものってあるじゃないですか。その店に行かないと食べられないような僕の味。そんな一杯を出していきたい」。

text:Yuichiro Yamada [KIJI] /
取材協力:呼び戻しとんこつ 光四郎

DATA

濃厚なスープのコク度
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • 5.0
後味良く飲み干せる度
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • 5.0
スープと麺の絡み度
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • ☆
  • 4.5
前職の意外度
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • ☆
  • 4.0
転職時のラーメン研究度
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • 5.0
店主の親しみやすさ度
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • 5.0

店舗情報

呼び戻しとんこつ 光四郎

〒815-0033
福岡市南区大橋2-11-14

電話
092-511-1717
営業時間
11:00~15:00、17:30~22:00
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WRITER

山田 祐一郎

山田 祐一郎

日本で唯一のヌードルライターとして活動。著書に「うどんのはなし 福岡」。2017年に麺索アプリ「KIJI NOODLE SEARCH」をリリースした。モットーは1日1麺。
webサイト[KIJI]http://ii-kiji.com/では日々の食べ歩きを記録したwebマガジン「その一杯が食べたくて。」も連載中。

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