元アパレル店員がつくる濃厚つけ麺
より美味しく食べてもらうために
店も味もコーディネートする
売るために考えた
女性の心理
洋服を買う時、ちょっとした理由で購入を止めることがある。例えばパンツであれば太腿回りのゆとりやテーパードの具合、シャツであれば着丈や胴回りのフィット感。わずか数センチの違いで、着心地が変わるし、見た目の印象も随分と異なる。
だからこそ、理想の洋服に出会えた時の喜びは格別だ。
「いかれたヌードル フィッシュトンズ」の店主・木下知也さんは、この店を開業する以前、アパレルメーカーに勤めていた。
その会社は自社のブランドの洋服を販売するショップを展開する一方で、熱意のある者には洋服のデザインを実践的に学べる機会を設けていた。学生時代、ファッションに熱を入れていた木下さんにとって理想的な職場だ。
ただ、当然ながら、入社早々、洋服づくりに関する知識も経験もない木下さんがデザインの部署に回されることはなく、最初はいわゆる販売員として店舗へと派遣された。
女性服特有の専門用語から乙女心まで、木下さんはがむしゃらに日々、吸収していく。
取り扱いブランドのターゲットは30〜40代の女性たち。目が肥え、精神的にも自立した女性たちに、まだ20代前半の、しかも経験の浅い木下さんが洋服を売るのは、想像以上に困難だったという。
「一番努力したのが、コーディネートですね。例えばワンピースを売りたかったら、帽子やバッグ、靴まで、何がどう合うのか、お手持ちのワードローブがどう生かせるのか、着こなしの提案っていうのかなあ、そういうことをしっかりせえへんと売れないんですよ。もちろん、そのワンピースのシルエット、着心地という商品そのものの知識も備わっとかんとあかんし」。
忙殺される日々
募るラーメンへの思い
陰ながら積み上げた努力、そして持ち前の人懐っこさで、木下さんはお客の心を掴んでいき、入社から2年目で主任に抜擢される。
その後、メンズも取り扱うアウトレットの複合店に異動。環境の変化に伴い、日々はまた忙殺されていく。
「元々、洋服を作りたいという思いがあって入社したのに、忙しさにかまけて、毎日があっという間に過ぎてって。ある日、『ああ、俺、何やっとるんやろうな』と思ったんです。自分で何かやりたい。そう思った時、閃いたのがラーメンでした」。
実は木下さんのラーメンデビューは遅い。高校時代までは、ほぼ食べてないというくらいだった。
それが一転したきっかけが、大学の友人に連れられて食べに行った京都の名店・無鉄砲との出会いだ。
「夢に出るくらい強烈に濃厚で、その時は『もうええかな』と思うんですが、ひと月くらい経つと、不思議と恋しくなるんですよね」。
アパレルメーカーに就職後、気がつけばラーメンを食べる頻度が増え、すっかりその魅力の虜となり、食べ歩きに夢中になっていた。
「隙あらばラーメンを食べるような生活になって、しかも仕事がハードで運動する時間もなくて、入社時から15kg近くも増えまして。家の洋服が次々に入らんくなって、ああ、これはもうあかんなと思いました」。
アパレルメーカーを退職後、修行先に選んだのが大阪の有名店「麺や輝」だ。
木下さんが中津店に食べに行った際、“弟子募集”という貼り紙に目が止まり、そこに書かれていた3年で独立できるという言葉に惹かれ、入社を決める。
そして3年間、みっちりと修業を積み、「麺や輝」を退職。
その後、丸1年の準備期間があったため、全国の有名店を食べ歩き、その中で、知人に紹介してもらったという東京の名店「麺処 ほん田」でも短期間だが修業をしている。
「短い期間でしたが、ほん田さんでは特にラーメン作りの技術的な面でとても勉強になりました。現在、看板メニューに据えている濃厚つけ麺は、ほん田さんの影響を結構受けていますね」。
食べる前に
美味しいは決まる
2017年12月に「いかれたヌードル フィッシュトンズ」を開業。木下さんが愛してやまないバンド、フィッシュマンズにインスピレーションを受けた個性的な屋号だ。
開業から2年に満たない中、すでに多くのファンを獲得している。
一番人気の「濃厚つけ麺」は、全粒粉のほか、企業秘密の食材を練りこんで仕上げた平打ちの自家製太麺、それに合わせる豚骨の出汁がしっかり出た濃厚なつけ汁が両車輪。
麺を咀嚼すれば歯の奥にグッと食い込むような力強い食感、そして甘みのある小麦のフレーバーが広がる。
つけ汁は豚のゲンコツや魚介など、出汁の出るピークを見極めて食材を投入し、その旨味を余すところなく抽出。ぽってりと濃度が高く、麺によく絡む。
煮卵のほか、種類、調味の異なる2種のチャーシューが増量、さらに和え麺としても楽しめる辛味噌などが追加される「特製」を選ぶファンが多いのは、トッピングの一つひとつに妥協がない証拠だ。
味もさることながら見せ方にも抜群のセンスを感じさせるのが木下さんのつけ麺だ。器には丹波焼をセレクトし、1人前ごとにトレーで出す。女性のために髪留めや紙エプロンを置く。少しでも良い飲食環境を作りたいという思いからスピーカーにはJBLを選ぶ。
木下さんはそうやって随所にお客の心地よさを高める工夫を取り入れている。
「洋服でもそうなんですが、見せ方って大事なんですよね。第一印象で決まるのは、人もラーメンも同じ。きっと食べる前にほぼ判断していると思いますよ。『わあ!美味しそう!』というテンションで食べる料理は、すでに美味しいんです。特に女性客は意識していますよ。
ファッションでもグルメでも、ブームは女性から生まれますしね。女性が行きたい店には自然と男性も来てくれるというのは前職で体感しましたから」。
あの頃、考え続けてきたコーディネートの提案は、木下さんが表現するつけ麺にも息づいていた。
ただ、一つだけ違うのは、アパレル時代に販売していたのはメーカーで製造した既製品だが、今、木下さんが売っているものは、自身がディテールまで考え抜いた“作品”だ。
洋服を作ることは叶わなかったが、木下さんは今、ラーメンの世界で自分を表現している。
「納得いくまで悩んで作り上げたつけ麺を食べてもらえるって、やっぱし嬉しいですよ。全てに責任を持って働くのは、やりがいもまるで違いますしね」。
text:Yuichiro Yamada [KIJI] /
取材協力:いかれたNOODLE Fishtons
DATA
店舗情報
いかれたNOODLE Fishtons
(フィッシュトンズ)
〒550-0013
大阪府大阪市西区新町1-25-18 レナジア新町ビル1F
- 電話
- 06-6535-9929
- 営業時間
- 11:00~14:30、17:30~22:00
- 祝日は11:00~14:30のみ営業、第1土曜の夜は通常のラーメン提供がなく「土曜日の夜」として立ち飲み営業を中心に、試作のラーメン提供もあり
- 定休日
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WRITER
山田 祐一郎
日本で唯一のヌードルライターとして活動。著書に「うどんのはなし 福岡」。2017年に麺索アプリ「KIJI NOODLE SEARCH」をリリースした。モットーは1日1麺。
webサイト[KIJI]http://ii-kiji.com/では日々の食べ歩きを記録したwebマガジン「その一杯が食べたくて。」も連載中。