求人詐欺とは?あわないための注意点やもしもの時の相談窓口を解説
「給料が高いから入社したのに、聞いていた額と違う」「仕事内容が求人情報と違う」など、入社前の情報と入社後の実態が違ったことはありませんか?
もしかしたらそれは「求人詐欺」かもしれません。
いわゆる「求人詐欺」とは、故意に実際とは異なる内容を表示して人材を募集する、虚偽の求人広告を出すことです。
悪意のある詐欺とはいかないまでも、法的な知識や労働者への配慮なく求人募集を行っている企業はまだまだ多いのが現実です。
この記事では、そんな求人詐欺や虚偽広告の被害にあわないために気をつけるべきこと、あった場合の対処や相談窓口を紹介していきます。
入社してみたら求人票の内容と違った?それ「求人詐欺」かも
残念ながら世の中には、「求人詐欺」をする会社が存在しています。
実際の労働条件とは異なる内容や、好条件のように誤解させるような文言をつかい、人材を募集すること。
求人票の記載内容と入社後の労働条件が異なることで初めて判明します。
のちほど具体例を紹介しますが、給料の額や雇用形態の違いなど、さまざまな例があります。
また、記載方をあえてわかりにくくすることで、求職者が理解しきれないまま応募することを見越したようなケースもあるのです。
例えば、残業代に関して次のような手口があることがわかっています。
手口 | 内容 |
---|---|
固定残業代(組み込み型)を利用した詐欺 | 決まった時間分の残業代を組み込み、基本給を高く見せる |
固定残業代(手当て型)を利用した詐欺 | 「営業手当」などの名目だが、実質上は残業代であるとし、必要な額を支給しない |
裁量労働制を利用した詐欺 | 裁量労働制を名目に長時間労働をさせ、法定労働時間を超過した分の残業代も支払わない |
「固定残業代」がどんな仕組みか、実はよくわかっていない、という人も多いのではないでしょうか。
固定残業代とは、「みなし残業代」とも言われ、たとえば「1日5時間分のみなし残業代を含む」とされていれば、1日3時間しか残業をしなかったとしても同じ給料を支払うということです。
基本給が高めに設定されていることもあり、それだけ聞くと、得をするような気になります。
しかし、入社してみたら毎日5時間の残業など当たり前だった場合、それは得でも何でもありませんよね。労働時間が長ければ、それだけ給料が高くなるのは当然のことです。
しかも、みなし残業時間として定められた時間を超えた分は残業代として支払うべきところ、「残業代は固定だから」と間違った理由をつけて支払いをしない会社があるのです。
このように、巧妙な手口で労働者を騙そうとするのが求人詐欺。それによって劣悪な環境で働く人が出てくることになります。
残業代に関する誤解は、他にもいくつかの例があります。こちらの記事を読んでみてください。
求人詐欺の現状とは?厚労省によると「減少傾向」
実際のところ、求人詐欺はどれくらい起きているのでしょうか。
統計的には、平成27年度から平成30年度にかけて4年連続で減少したことがわかっています。
ハローワークでは、申し出に基づいて企業への確認や是正指導を行っています。
つまり、「詐欺」ではなくとも、誤解を招く表示やわかりにくい表示、求職側の思い込みなども多いことがわかります。
ちなみに、「実際と違う」との申し出や苦情の内容は次のようなことです。
- 賃金に関すること
- 就業時間に関すること
- 職種・仕事の内容に関すること
- 選考方法・応募書類に関すること
- 休日に関すること
こういった項目には、特に注意して求人票を確認することや、面接時などで具体的に確認しておくことをおすすめします。
罰則について
それまでは求人詐欺は許されてた、ってことなんですか?
でも、ハローワークや転職エージェントなどを通じて求人募集した場合は、企業への罰則がなかったんです。
これは職業安定法の改正によって定められたこと。同じタイミングで、採用時の条件があらかじめ示した条件と異なる場合には、その内容を求職者に伝えることも義務付けられました。
さらに、注意点はもう1つあります。
労働基準法で、賃金や労働時間など合わせて13項目の具体的な労働条件については、「労働契約の締結時」に示すことと規定されています。
つまり面接時には条件を明示していなくても法的に問題はなく、入社当日に知らされるケースも多いです。
また、事実内容や故意かどうかを証明するのは難しく、詐欺としての立件も簡単ではありません。
求職者側も、自ら被害に合わないように十分気をつけなくてはいけませんね。
求人詐欺の具体例を紹介、当てはまる人もいるのでは?
企業による求人詐欺、あるいは故意と証明できないとは言え誤解を招いたり説明不足だったりした結果、入社後に「話が違う」と感じるさまざまな事例が起きています。
この章では、いくつかの例を紹介するので、求人情報を確認するときの参考にしてください。
企業側の説明不足や配慮不足で取り返しのつかない事態となった例
過去にニュースで取り上げられた1件の過労死事件では、賃金に関する説明が十分でなかったことが事件を生んだ原因の一端だと考えられます。
求人情報との差異に関する部分を大まかに言うと、次のような内容です。
・入社後の研修で「基本給12万3200円+役割給7万1300円」だと説明。
ただし「役割給」とは「1カ月の残業が80時間未満だと減額される」ものだった。
この事件で死亡した人は、入社後わずか4カ月で命を落としてしまっています。裁判では、死亡の原因が長時間労働にあると認められました。
知ってたら応募しなかったかもしれないし。
それに、もし口頭での説明なら聞き逃したりする可能性もありますしね。
この企業では当時、月100時間まで時間外労働を可能にする労使協定が結ばれていたといいます。この設定自体、従業員の健康を考慮していたものとは考えられません。
これ以外にもいろいろなケースがあります。大まかに見ていきましょう。
賃金に関する例
賃金、いわゆる給与に関しては、収入のアップを求めて転職する人も多いもの。そうでなくても、金額は誰もが必ず確認しますよね。
しかし、求人情報と入社後で次のような違いが。
- 給料が事前に言われた額より低かった
- 「基本給20万円」とあったのに、残業しても20万円しかもらえなかった
- 残業代が一部しかもらえなかった
- 幹部候補生という名目で管理職扱いされ、残業代が出なかった
- 賞与の支給額が、知らされていたより低かった
給与の体系や手当、残業に関する支給がどうなっているかは、必ず確認しておきましょう。
賞与に関しては、求職者側にも覚えておきたいことがあります。
賞与は企業全体の収益や個人の業績などによって決まるため、金額をはっきり記載していないことがほとんどです。
また、法的には支払い義務もないため、「業績がよくなかったので今季のボーナスはなし」となる可能性もあります。
求人情報には、過去に支給した比較的高い賞与の額を例として掲載する企業も多いです。必ずその額がもらえると誤解しないようにしましょう。
勤務時間や休日に関する例
勤務時間や休日も、働く上では重要なことですよね。
「どこでも同じようなものだろう」と思い込んでしまっていると、今より悪い条件も見落としがちになるので注意してください。
ただ、求人情報では読み取れないこともあります。
- 勤務時間が聞いていた時間と違った
- 有給休暇をなかなか取らせてもらえない
- 完全週休2日制のはずなのにそうではなかった
- 定時で帰宅できると聞いていたのに残業がかなり多かった
「聞いていた内容と違う」という場合、「言った」「言わない」を追求しても意味はありません。「書かれたもの」があればその内容も読み、矛盾があれば必ず確認しておきましょう。
また、有給休暇の取得率や残業の実態などについては、求人情報にはほとんど記載されていません。
「四季報」に掲載されている企業であれば、有給取得率などの確認ができますので参考にしてください。
週に休日が何日あるか、「週休2日制」と「完全週休2日制」には大きな違いがあります。
こちらの記事を参考にしてください。
仕事内容に関する例
仕事内容が思っていたのと違った、という話も、残念ながら転職においてよくあることの1つです。
新卒なら入社してから配属がわかる会社も多いもの。しかし、転職では仕事内容をある程度は絞って募集されていることが多く、それが違うとなると納得がいきませんよね。
仕事内容に関しては、次のような事例があります。
- エンジニアとして採用されたのに、営業職に回された
- 書かれていた勤務地と違うところに配属された
- 異動はないと言われていたのに異動があった
- 内勤で採用されたのに外勤をさせられた
- 総合職なのに男性に重要な仕事が回され、女性は事務的なことしかできない
しかし実際には、職種を限定した契約というのは多くないんです。
業務内容の変更の可能性も考え、あえて雇用契約書には「事務業務全般」など広い業務範囲での契約をする会社が多いです。
納得できない場合は、変更の理由などを上司にたずねてみましょう。特性やスキルを見て判断されることも多く、新たなキャリアを開くきっかけとなるかもしれません。
あまりに業務内容がかけ離れていたり、自分には向かないと思う仕事内容だったりする場合も、不満を抱え込まず一度相談してみるのがおすすめです。
勤務形態に関する例
勤務形態に関することも、働く側にとっては重要なことですよね。次のようなことで転職後に不満を持つ人もいます。
- 正社員で募集されていたのに、試用期間中は契約社員扱いだった
- 定年はないと言われていたのに65歳で定年だった
試用期間に関する企業側と労働者側のトラブルも多いです。
以前は試用期間があることすら求人情報に書かれていないケースがありました。しかし平成29年に職業安定法が改正され、試用期間の有無やその期間について求人情報への記載が必要となっています。
試用期間を有期契約にするのは、いわゆる「雇い止め」をしやすくするのが目的だと考えられます。
しかし、試用期間と同じ目的での有期契約であれば、期間終了と同時に「契約期間満了」という理由で契約解除しようとしても、法的に無効となる可能性が高いです。
裁判沙汰になることもありますが、泣き寝入りしている人も多いでしょうね。
法的な問題がなかったとしても、労働者にとって、「求人情報と違う」「聞いていたことと違う」というのは会社への大きな不信感として残りますし、仕事への意欲も失いかねません。
企業側には、会社の力となる労働者への配慮を忘れずにいてほしいものですね。
求人詐欺にあわないようにするには? チェックすべきポイント
求人情報に記載すべき事項が増えるなどの法律改正がなされたとはいえ、求人詐欺、あるいは企業側の認識不足によるトラブルはなくなっていません。
自分で気をつけるにも限度はありますが、次のようなことで自分を守ることをおすすめします。
それぞれ見ていきましょう。
労働条件通知書と雇用契約書の確認
入社の際、会社から「労働条件通知書」と「雇用契約書」を渡されます。必ずしっかりと目を通しておきましょう。
「労働条件通知書」とは、労働契約を結ぶ際に企業が労働者側にその労働条件を明らかにするための書類のこと。
労働基準法では、特に次の5つの点については書面を作成し、労働者に渡すことが義務付けられています。
・就業場所および仕事内容に関すること
・始業・終業時刻、時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交代制などの事項
・賃金の決定、計算と支払の方法、給与計算の締め日と支給日
・退職に関する事項
俺のときはそんなの知らされてなかったぜ。
「雇用契約書」は、条件を知らせる労働条件通知書と違い、契約内容について労働者側の合意を得ることが目的で作られるもの。
書面にすることを義務付けられてはいないものの、民法や労働契約法に基づき、「言った」「聞いてない」といったトラブルを避ける目的で、多くの企業が作成しています。
雇用契約書には署名や印鑑が必要となり、自分がその契約内容に同意したことの証明となります。
内容を確認せずに押印するのではなく、こちらも必ず目を通し、疑問点があったら印鑑を押す前に確認してください。
企業の情報はインターネットや知人などの話も参考に
企業名を入力してネット上で検索すれば、情報が得られる場合があります。
代表者のインタビュー記事やSNSなどがないかも探してみましょう。その内容で、人となりや会社の状況などがわかるかもしれません。
また、その企業で働いている人やその家族・知人などが内情を知っていたりすることも。
ただし、ネット上で匿名で口コミなどを書くのは、その企業に不満を持った人が大多数。書いた人個人の主観や個人的事情が絡んでいる可能性もあるので、それだけで判断するのはおすすめできません。
これってどういうことなんでしょう?
入社したら低い方の条件にされた、となる可能性も否定できませんからね。
また、「就職四季報」などを見れば、主な企業の離職率や勤続年数、社員の平均年齢などを知ることができます。
離職率が高かったり勤続年数が短かったりすれば、それだけ人が定着しない何らかの問題を抱えている可能性がうかがえます。
社員の平均年齢が低い場合、新しくできた会社や経営者が若い会社であれば不思議はありませんが、そうでなければやはり従業員の入れ替わりが激しい可能性が高いです。
求人情報にある「甘い言葉」には要注意
求人情報は、企業がなるべくよい人材を採用するため、たくさんの応募者を集めるのに利用するもの。
そのため、良い点ばかり強調されたり、実際よりも良い職場だという印象を持たせる書き方をしてあることも多いです。
「簡単な仕事で高収入」などと書いてあったら、「なぜ?」「本当かな?」と疑問を持ちましょう。
また、一見よさそうなことが書いてあるけれど、見方を変えれば違う一面が見えてくるケースもあります。
次のような文言も要注意です。
気になる言葉の例 | 理由 |
---|---|
学歴不問・職歴不問・未経験歓迎 | ・誰でもいいほど困っている、という可能性あり |
若い社員が多く活躍している | ・長く仕事が続かない、定着率が低い恐れあり |
アットホームな職場、自由な職場 | ・規程などが守られない環境である恐れあり
・あらゆる仕事をさせられる可能性あり ・公私の区別が付けにくい可能性あり |
最高年収1000万円以上 | ・歩合制で営業トップの人など、まず届かない例である可能性あり |
やる気に応える企業です | ・給与のほとんどがインセンティブなど、よほど業績を上げないと満足のいく収入が得られない
・常に新たな企画の提案を強要されたり、何でも自分が主導して進めないといけない社風の可能性も |
でも、気をつけたほうがよさそうですね。
特に、焦って仕事探しをすると良い面ばかりが見えがちなので気をつけてください。
条件面で少しでも気になったことは放置しないで確認することが大切ですし、確認できない場合は応募を見送るのも1つの防衛策ですよ。
企業研究の一環として、職場見学や面談で働く様子を見せてもらったりするのがおすすめです。
これって求人詐欺なのでは?そんな時に相談できる窓口一覧
求人詐欺にあった、もしくは聞いていたことや求人情報と入社後の条件が違った場合、どうしたらいいのでしょうか。
契約書にサインする前に気づいたのであれば、会社側に確認しましょう。
契約書の内容と実状が違う場合には、会社に申し出るか、あるいは外部の相談窓口を利用してください。
相談する際は、事実の確認ができる書類を用意しておくのがおすすめです。求人情報のコピーや労働条件通知書、雇用契約書の控えなどは手元に置いておきましょう。
ハロワの紹介なら「ハローワーク求人ホットライン」
「ハローワーク求人ホットライン」では、ハローワークで公開・紹介する求人について記載事項との違いがあった場合の相談を受け付けています。
ハローワークで事実を確認した上で、会社側には是正指導などを行ってくれるのです。
項目 | 内容 |
---|---|
電話番号 | 03-6858-8609 |
料金 | 相談料は無料、通話料は自己負担 |
受付時間 | 平日 8:30~17:15 ※土日祝日、年末年始は対応していない |
最寄りのハローワークに行って相談することもできます。ただしその際は、混雑で待ち時間があることも想定しておきましょう。
各地の労働局、労働基準監督署にある「総合労働相談コーナー」
厚生労働省が管轄する各都道府県の労働局、全国にある労働基準監督署には、「総合労働相談コーナー」があります。
求人の募集や採用に関することはもちろん、配置転換やいじめ、パワハラなどあらゆる労働問題に対応する窓口です。
相談をして、法令や裁判例などの話を聞いたり、解決に向けた助言を受けたりします。
内容によっては、労働局長からの指導や、裁判など他の解決手段などについて説明をしてくれます。
厚生労働省の公式サイトで詳しく紹介されているので見てみてください。
垣根を超えた労働組合「総合サポートユニオン」
業界や職種などの枠を超えた労働組合「総合サポートユニオン」でも、労働に関するさまざまな相談を受け付けています。
会社への直接な対処を任せられるわけではありませんが、法令に則った適切な対処法を教えてくれます。
「総合サポートユニオン」では、メールでの相談も受け付けています。メールなら受付時間を気にせず送信できますが、詳しい事情などを文章にするのは難しいかもしれません。
公式サイトに必要事項などの説明があります。
若者による若者のための労働・生活相談を請け負うNPO法人「POSSE」
「POSSE(ポッセ)」は、若者の労働・生活問題に若者が取り組むことを目的としたNPO法人です。
「POSSE」では、電話・メール・来所のいずれかで相談を受け付けています。来所の場合も必ず事前連絡をしましょう。
内容に基づき、法律の知識を教えてくれたり、解決方法のアドバイスをしてくれたりします。
ケースによっては、スタッフが具体的にサポートしてくれることも。労働組合や弁護士など、労働問題の専門家を紹介してくれることもあります。
弁護士に相談できる「日本労働弁護団ホットライン」
「日本労働弁護団」は、名前のとおり労働者の権利を守るために全国の弁護士が作った団体です。
全国各地でホットラインを開設し、相談を受け付けています。
電話相談だけでなく弁護士との対面相談や訴訟などの手続きに至った場合には、費用がかかる可能性があります。
会社の電話や会社から持たされている携帯電話などでは、通話履歴や相談員からの電話着信などで相談の事実がバレてしまう可能性があります。
求人詐欺には気をつけて!もしもの時には迷わず相談
入社後に「話と違う」「こんなはずでは」と求人情報や事前説明との違いに憤慨する人は多いもの。
企業側が故意に行う詐欺行為もあれば、多くの募集を狙ったおとりのような行為だったり、単なる説明不足だったりといろんなケースがあります。
転職者側としては、まず求人情報から「疑って」見ることがおすすめ。
甘い言葉に惑わされず、細かい労働条件、雇用条件を確認しておきましょう。
入社前にあれこれと聞くのは気が引けるかもしれませんが、入って後悔するよりはあらかじめ聞いて解決しておくのが得策です。
とはいえ、入社して初めてわかるケースも少なくないのが現実。納得がいかない、許せない、という人は、泣き寝入りしないで相談窓口を利用し、専門家のアドバイスを聞きましょう。
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不満に感じても、わざわざハローワークに言わない人も多いですし、ハローワークの求人以外もたくさんあります。実態はもっと多いと考えられますね。